TOPICS019:サヴィニャックの色 その① 25.05.2018

しばらく前の記事で紹介したように、当館における本展は、二つの展示室をつなぎ、会場への導入となる「中央ホール」から始まります。


この場所で注目していただきたいのは、サヴィニャックが晩年に愛用した画材・道具(参考出品作品)です。2002年(平成14)まで長生きし、生涯現役だった作家だけあって、これらの品々は、いずれも骨董的なものではありません。クレヨン、サインペンやマーカー、色鉛筆、アクリル絵具などは、今日も流通している製品が多く、国内の画材店で見かけた、学校・大学の授業で使った経験がある、という皆さんも少なくないのではないでしょうか。

ともあれ、画材・道具を眺めたうえで、いよいよ展示室内の作品、特に肉筆の「原画」と向き合い、じっくりと観察してください。

たとえば、キャンヴァスにアクリル絵具で描かれた《「文化遺産年」原画》(1980年)。あるいは、合板とグワッシュを用いた《「クリームデザート モン・ブラン」原画》(1964年)両者の共通点は何でしょうか。肉筆作品とポスターの比較も大切です。上記の原画2枚と、《フリジェコ:良質の冷蔵庫》(1959年)を見くらべてみましょう。

「ポスター画家」であるサヴィニャックの場合、その作品は、基本的には「広告されるモノ・コト」を率直に伝え、クライアントの意向、印刷・掲出現場の事情も鑑みながら、ポスターという媒体に置き換えられることを前提にしています。よって、具象的で簡略化された表現のモティーフは、ラインアップとヴァリエーションの数・種類が膨大です。それでもなお、無数のモティーフ、さまざまなポスターを通底する「特徴的な造形性」が顕著に認められ、その一つが「」に他なりません。

  

サヴィニャック作品に頻出する色彩は――ずばり、コバルトやシアンを基調とする「爽快な青」です。この系統の青の色味・明度・彩度に変化をつけ、他の色との効果的な組み合わせによって、訴求したいモノ・コトに最も合致した「絵」を展開し、宣伝物としての多様性も図られています。もちろん、それぞれの商品とクライアントを象徴する色(シンボル・カラー)、ロゴマークやパッケージには決まりがあるので、それを尊重し、純粋美術とは異なるグラフィック・デザインならではの「色のコンポジション」を生み出しました。また、原画ではデリケートな色の表現が、ポスターになると、必然的に平明な刷りに変わる点も、サヴィニャックは承知していました。つまり、版画(美術作品)との違いを認識し、同時代の印刷技術(商業印刷のリトグラフやオフセット刷り)で可能な「自身の色=青=広告の色」を駆使した、として良いでしょう。

 

以上を念頭に置いて、改めて展示室を一巡してください。すると、「サヴィニャックの青」が次々と目に飛び込んでくるはずです。

  

そして、最後にもう一度、画材を仔細に見れば、どの色がよく使われたのか、すぐさまお分かりになるでしょう。(続く)

※今回、《文化遺産年》はポスターが出品されていませんが、「サヴィニャックとデザイン史の本棚」コーナーで紹介した Anne-Claude Lelieur, Raymond Bachollet, Savignac affichiste, Bibliothèque Forney, Paris, 2001 のなかに、それを見ることができます。

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